燻煙乾燥木材と森林循環システムについて

一級建築士 松野 浩 99/07/27

はじめに

今日、日本人の住まいの多くは木造住宅に限らず使用木材の大部分を外国産木材に依存している。その最大の理由は国産木材の価格が高いことにある。だが一部には様々な工夫によってコストダウンされた国産木材も外国産木材に負けることなく流通している。(約2割)

しかし、国産材流通量の絶対数の不足は森林労働者を減少傾向に導き、人手不足による間伐停止林の増加から森林荒廃へ、そして供給能力の減退へと悪循環に陥っている。

また、外国産材の輸入増加は、東南アジアにおける南洋材の皆伐による地下泥炭層の乾燥化に伴う山火事の泥炭層への延焼、シベリア材・北米材の皆伐による凍土層の融解や地下保水力の低下に伴う大洪水の発生等、国内ばかりではなく海外の森林環境をも荒廃へと導いているのである。

日本の森林は、今日の日本の木造住宅建設全てを満足させることができる潜在的供給能力を持っており、何らかの安定的な木材供給システムを構築する事によってその能力を引き出すことが可能なはずである。

(参考)1994年の国産材と外国産材を合わせた全供給量が約1億9百万m3に対して、人工林における1990〜1995年の5年間の蓄積増加量は約3億m3に達している。(1995年の人工林における蓄積量は約18億9千万m31966年は約5億5千8百万m3)

間伐材について

1.間伐材の需要は今後増大できる

・30〜40年前までは、日本の建設工事現場では間伐材を利用した足場丸太が多用されていた。土木工事の土留め用杭材、造園工事の支柱、柵等様々な場面で間伐材が利用されていた。しかし、鋼管・形鋼をはじめとする鉄材やアルミ材の金属材料、合成樹脂材料の普及に伴い間伐材の需要は低下していった。

・金属材料、合成樹脂材料は電力、石油等の環境負荷の大きいエネルギー・原料を使用するので、今後環境対策コストが増大化し大量消費を前提とした大量生産方式も消費量の縮小とともにスケールメリットが逆にスケールデメリット=スケールダメージとなっていく。その時その価格構成において原材料費とエネルギー消費がほとんど無く(森林の恵み)大部分が手間賃と運搬費だけの間伐材は、コスト競争上次第に優位に立つようになっていくはずである。

2.間伐材の材質改質が大きな付加価値を生む

・間伐材を土木工事・造園工事等屋外使用する場合、従来からクレオソート油やPF(フェノール類・無機フッ化物系防腐剤)の塗布・浸漬・加圧注入処理が一般的であるが、環境面・健康面の安全性に関しては問題が多い。また、木材表面の炭化処理や樹脂浸透処理等の方法もあるが経済性の点で問題がある。

・今日、安全性、耐久性、経済性に優れた、化学薬品に依存しない木材保存処理技術によって、間伐材に大きな付加価値が与えられるのである。

3.間伐材の需要増大化が間伐作業を促進する

・間伐材の建築資材への利用方法は、集成化による床・壁用パネル材、ブロック化による床材、長尺繊維化したものをセメントで固化したコンクリート用打込型枠材等幾つかの種類の製品が一般的に普及しつつあるが、まだ発展途上にあり数量的にも限られたものである。

・これら建築資材に加えて、河川の護岸、道路の法面処理、高速道路の遮音壁、港湾の護岸等の土木資材としての用途を広げることで間伐材の需要は飛躍的に増大する。そのとき間伐作業は否応なく促進されることになる。

4.間伐実施面積の増加が良質国産材の安定供給に繋がる

・間伐を実施する事により木材の品質が安定すると同時に成長も促進されるので供給能力も増大する。

燻煙乾燥木材について

1.蒸気乾燥と薬剤処理の問題点

・今日の一般的な木材乾燥法は蒸気乾燥である。今まで国内の各森林組合を中心とする木材供給者は、国の補助金助成策もあって大部分は石油系燃料による蒸気乾燥釜を設置してきた。一部には製材前の「葉枯らし」(国有林材ではサンドライ)や剥皮乾燥法等による自然乾燥によって良質材を供給するところもあるが、長期の乾燥期間と大変な手間を要するために一般的とはいえない。また製材後に桟積みや立てかけ式の天然乾燥や強制換気を組み合わせた「プレドライング」を行うが、ほとんど生材の状態で出荷されるのが現状であり、さらに蒸気乾燥させて乾燥材にしている。

・木材の品質において、蒸気乾燥は心材部と辺材部との間に乾燥度の差違を生じやすい。そのために乾燥収縮に伴う狂いが生じやすい。また、細胞膜の破壊脱脂作用によって木材強度も低下する傾向にある。

・建物の土台部分や水掛かり部分、造園・外構・線路敷等へ使用する場合は、現在まで防蟻・防腐処理としてCCA(クロム、銅、砒素化合物系木材保存剤)加圧注入処理やクレオソート油PF(フェノール類・無機フッ化物系防腐剤)・TCP(トリクロルフェノールないし同ナトリウム塩)の塗布・浸漬・加圧注入処理といった有害化学物質が一般的に使用されてきたが、環境面・健康面への蓄積的影響と、廃材になった時点での焼却処理に伴うダイオキシン類等有害物質の発生という将来的な影響が心配される。

2.起源は囲炉裏の煙で燻された民家の木材

・過去においてほとんど毎日のように囲炉裏に火を焚きその煙で燻された古民家の構造材は、すすけてはいるが100年以上前の建物であっても今日なお構造的性能を損なうことなく強靱であり、かつ腐朽とは無縁である。

3.燻煙乾燥が間伐材に価値を与える

・木材に燻煙乾燥を施すことにより煙の成分と木材のタンパク質が結合して木質を硬化させ強度が増す(燻煙乾燥木材は蒸気乾燥木材に対して約1.3倍の強度)と同時に煙の成分が木の芯まで含浸して防腐・防カビ・防虫の効果をもたらす。

・燻液を含浸・塗布して防腐処理することにより、化学物質に頼らずに湿気に強い腐朽しない木材に加工できる。

4.燻煙乾燥釜は環境を汚染せず経済的

燻煙乾燥釜の燃料は枝打ち廃材、大鋸屑、プレカット廃材チップ等の不要材を使用するので燃料費はほとんどかからず経済的である。(蒸気乾燥は柱1本の乾燥に灯油代が約700円かかる)また排煙は燻液として回収するため煙を排出せず環境面・健康面で安全である。燻液は殺菌・防腐・防カビ・防虫剤として利用する。

5.森林組合等既存木材供給組織は燻煙乾燥釜を採用しにくい

・森林組合等既存木材供給組織はすでに国の補助金を得て蒸気乾燥釜を設置しており、それを十分に活用しているところは非常に少ない。(国産材のうち乾燥材は約6%に過ぎずほとんどは生材の状態で流通している)地元産材ではなく外国産材を乾燥しているところすらある。従って新たな乾燥釜の設置には踏み切れないところがほとんどである。

6.燻煙乾燥システムは米国特許等を取得済み

・システムの国際的な特許取得を進めており、将来的には燻煙乾燥材の輸出、海外における燻煙乾燥システムの普及を目指している。

7.将来燻煙乾燥材が木造住宅材料の主流となっていく

・燻煙乾燥システムは環境負荷が無く健康に対する問題も全くない。また経済性にも優れており、その優れた生産木材性能が周知のものとなれば、木造住宅の素材としても主流となっていくと思われる。

企画の内容

1.燻煙乾燥プラントの設置

・県内に1カ所の燻煙乾燥プラントを設置し、まず間伐材の燻煙乾燥を行い県内を中心として土木資材を主体に流通させる。

・設置場所としては、切り出した木材の集積場、製材所、プレカット工場、木材出荷基地等に隣接したところが望ましい。

2.燻煙乾燥木材の供給先

・河川整備

建設省の「多自然型工法」=自然を活かした川づくりへの方針転換を受けて、護岸工事用資材として供給する。

(施工実績:青森県大畑川の護岸工事、金沢市木曳川改修護岸工事)

・公共空間の外構整備

歩道や公園の舗装材、屋外施設用資材、造園資材として供給する。

(施工実績:横浜市シーサイドパーク舗道、和歌山市舗道等)

・道路施設整備

高速道路の遮音壁用資材等として供給する。

(施工実績:日本道路公団静岡工事事務所と共同で木製遮音壁を開発中)

・法面整備

法面補強用資材、法面緑化用資材として供給する。(今後開発していく)

・鉄道施設整備

線路敷のポイント部・連結部用枕木材等として供給する。(今後働きかける)

・電力・電話施設整備

国立・国定公園内他の電柱用材等として供給する。(今後働きかける)

・その他・建築整備

公共施設、民間建築物の建設資材、建築用材等として供給する。

(施工実績:水俣市保健センター、水俣湾展望台、大町桂月資料館(青森県)、他。金沢城復元に採用予定)

・ガーデニング用資材

一般家庭用ガーデニング用資材としてホームセンター、園芸専門店、通信販売業者、百貨店、スーパーマーケット等小売り企業・商店等に供給する。(今後働きかける)

3.燻煙乾燥プラントのネットワーク化

・現在のネットワーク

古代人グループ:褐テ代人スガオカ・ふくしま古代人(山登木材梶j・やまがた古代人(燻煙健康木材梶j・信州古代人(中澤木材梶j・いしかわ古代人(滑マ田商店)・とやま古代人(中川木材店)・
プレカット協業組合:大山プレカット協業組合

・今後のネットワーク

出荷数量を安定させて地域的な価格格差を解消し、全国的な需給バランスを確保するために、将来的には広範なネットワークシステムを構築する。また山からの材の切り出し供給情報等と、最終消費者ともネットワーク化した総合的なネットワークシステムに発展させていく。

 

コストプラン(概算)

1 イニシャルコスト

敷地造成費 1,000 m3 × 5千円= 5,000 千円
調査・設計費             20,000 千円

計   25,000 千円

2 ランニングコスト

プラントリース料(7年)        2,500 千円/月
原料・燃料費 600 m3 × 33千円= 19,800 千円/月
人件費                  1,000 千円/月
輸送費 500 m3 × 3千円=      1,500 千円/月
電力・メンテナンス料            50 千円/月

計 24,850 千円/月

3 収入予想

製品売上 500 m3× 65千円= 32,500 千円/月

4 粗利益

                 7,650 千円/月

※ プラント建設地の立地条件、地形条件、原材料及び製品の設定条件等により変わってきます。
  プラントは1回当たりの乾燥量253m3、1ヶ月当たり2回転のタイプです。
  原材料は1m3当たり4万円程度のものを想定し、燃料は無料の廃材としました。

 

(参考)木材乾燥機の機種別の設備費比較

 

  収容材積1m3当たりの費用

   備考

蒸気乾燥機

  690千円

灯油等の燃料費は別途

除湿乾燥機

  400千円

電力等の燃料費は別途

高周波加熱減圧式乾燥機

3,000千円

電力等の燃料費は別途

燻煙乾燥機

  400千円

燃料費はほとんど無料

※ 乾燥量300m3で比較しています。

 

タイムスケジュール

 

2008年

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

調査設計

プラント建設工事

調整運転

稼働

※ 気象条件等により変動します。

(参考)燻煙乾燥プラント例

秋田県雄勝郡 滑ロ倉

(報道資料)カナダで炭化炉乾燥を合弁-古代人スガオカ

燻煙乾燥木材を使った産直木造住宅供給システム

燻煙乾燥木材

煙の科学と市場への適応

 

FAX:045-961-7647

※ 資源保護のためカタログ類の配布は致しません。

 

戻る 進む

[ ホーム ] [ 上へ ] [ eco-index ] [ eco-goods ] [ 暮らし ] [ 計画・建築設計・監理 ] [ 古代人の環 ]

 

Copyright© 2001-2007 The First-class Architect's Office HIROSHI MATSUNO Atelier KANKYO (Environment) System  All rights reserved