参考資料

ほんとうの豊かさ

A.T.アリヤラトネ 

(財)日本環境財団環境月間ファイナルシンポジウム(1999/6/26)記念メッセージ集より

 やさしいまなざしと、長い年月を運動に投げかけた地球色の笑顔。アリヤラトネさんは1931年、インドの南に位置する島国スリランカ(*1)で生まれました。1958年、27才のころスリランカで「真実と非暴力」を基本理念とする農村開発運動「サルボダヤ運動」(*2)を創設。以来現在までに人口の約2割にあたる8000以上もの農村の開発(*3)に携わっています。

 若き時代を高校教師として過ごしたアリヤラトネさんは、生徒と共に訪れた農村の貧しさに大きな衝撃を受けました。イギリスから独立し、国家としての歩みをはじめていたとはいえ、色濃く残る植民地支配のなかで温存されてきた村々の物心両面の貧困は根が深く、悩み多いものでした。

 サルボダヤとはスリランカの言葉で「万人の目覚め」ということ。世界から飢餓・病気・無知・争いをなくすことをめざすアリヤラトネさんの運動は、先進国のODA(政府開発援助)にたとえられるような、「近代化の促進→経済のみによる誘導」といったものではなく、あくまでもオルタナティブな(もうひとつの)解決を目指しました。

 「子ども・母親の支援(保育園の設立・給食など)」「村民の保健衛生支援(井戸やトイレづくりや家族計画・医療の支援)」「収入向上の支援(手工芸品による村おこし)」など、その運動の根っこは、あくまでも生活であり、地域。「参加型開発」(*4)であり、経済支配の呪縛からの「開放と自立」でした。

 またアリヤラトネさんの活動の根っこには、はっきりと有機農業を軸とした持続可能な第一次産業の活性化が位置づけられています。有機農業がちまたで騒がれているような表面的なものではなく、ほんとうの豊かさを目指す、人間中心のテクノロジーなのだということが示唆されます。

 こうした視点により村民が「目覚め」ることで、「ほんとうの豊かさ」を獲得していく。その精神は、隣国インドの哲人・マハトマ・ガンジーの遺志を受け継ぎ、仏教思想とも結びついて、世界的な共感を呼んでいます。

 現在アリヤラトネさんは国連機関の各種委員を歴任するほか、アジアのノーベル賞といわれるマグサイサイ賞をはじめ、ベルギーのボードウィン国王大賞など多数の賞を授けられ、世界的NGO指導者として活躍されています。

A.T.アリヤラトネ
●スリランカ・サルボダヤ運動創始者

1931年スリランカに生まれる。
教員養成カレッジを卒業後、仏教系のエリート校ナーランダ高校の理科教師を14年間務める。その時、生徒たちと被差別村でワークキャンプを行い、大きな反響を呼ぶ。
1958年スリランカで「欲望」ではなく「必要」に基づいた農村開発運動(サルボダヤ運動)を開始する。
1972年にスリランカ議会、オランダ・ドイツの国際機構から正式なNGOとして認可を受ける。
現在、スリランカ8、000カ村(総人口の2割)で活動を展開中。その活動はスリランカ一国にとどまらず、全世界に広がり続けている。
「サルボダヤ」とは、「万人の目覚め」を意味し、世界から飢餓・病気・無知・争いをなくすことをめざし、子どもや母親への支援(保育園の設立、給食など)、村民の保健衛生に関する活動(井戸・トイレづくりなど公衆衛生の設備、伝染病予防などの医療対策、家族計画など)、収入向上活動(手工芸品の作成、集乳など)等、有機農業を軸にした持続可能な第一次産業の活性化を通して、世界の民衆の自立を目指して、活発な活動を行っているアジア地域最大級のNGO。
環境・平和・自立・教育などの人類的課題に対して、40年以上に渡り、果敢に挑み続けるそのパワフルな開発運動は、アリヤラトネ氏の卓抜したリーダーシップと共に、参加型開発のモデルとして世界から高く評価され、国連機関の各種委員を歴任するほか、アジアのノーベル平和賞といわれるマグサイサイ賞をはじめ、ベルギーボードウイン国王賞、各国の大学よりの賞、スリランカ大統領より国家への功績に対する賞等、多数の賞を授けられている。

サルボダヤ シュラマダーナ運動 のHP

(*1)「聖なる大地」の意。

(*2)正式名称は “Lanka Jatika Sarvodaya Shramadana Sangamaya”、スリランカ国内では一般に “Sarvodaya” と呼ばれている。

(*3)現在までにスリランカ約21,000ヵ村のうち約15,000ヵ村が何らかの形でこの活動に参加している。

(*4)アリヤラトネ氏が語るサルボダヤ運動の開発観:「(開発という言葉は)高度に非人間的な意味に定義され,公式化され,そして実行されてきた。(中略)私は『開発』を人が精神的に目覚める過程であると定義したい。このプロセスは個人,家族,小集団,村落,都市社会,国家社会および世界社会のなかで同時進行的に進んでいかなくてはならない。またその精神的目覚めというのはすべての側面を含むもので,人間の精神,倫理,文化,社会,政治,経済面での生活が不可分に絡み合う総合的な過程であるべきだ」【アリヤラトネ1990:185,()鈴木晋介氏】。出典:2000.3『族』より

例えば、一村民家族の家の屋根を葺き替える場合の作業システムは、日本の飛騨白川郷の合掌造り屋根の葺き替え作業等と同様で、村民の大部分が作業に参加し、家の住人が参加者全員に食事をふるまうというように、労働の代価として金銭的な受渡がない形で進められます。
また、村民に対する資金貸し付け等を低利かつ柔軟な期間設定でサルボダヤ委員会または最終的に村に設立されたサルボダヤ銀行が行う等の金融経済活動も行っています。

(2001/10/12  松野 浩)

参考図書

「アリヤラトネの道 サルボダヤ運動の全貌」 G・リヤナーゲ著 道家祐元/上坂元一人共訳 (株式会社世論時報社)

「地球家族の絆を求めて」アリヤラトネ著 (日本青年奉仕協会)

「東洋の呼び声」アリヤラトネ、山下他訳(はる書房、1990)

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